臨床カンナビノイド学講座は東京大学大学院医学系研究科に日本で初めて設置された、カンナビノイドを研究する講座です。カンナビノイドとは大麻草に含まれる特有の生理活性物質の総称であり、ヒトを含む生体において様々な機能を発揮することが知られています。様々な疾病や症状に対して効果を発揮するという報告も複数存在しており、特に欧米では、カンナビノイドの一成分であるカンナビジオールが特定の難治性てんかんに治療薬として承認されています。また近年、皮膚の状態や睡眠などに対する良い影響も存在することが示唆されており、医薬品ではない一般製品として世の中に普及の兆しを見せています。その一方で、カンナビノイドの作用は複雑で、未だ多くの機序は十分に明らかとされていません。このような背景のもと、本講座では細胞や実際のヒトを対象とした研究を実施し、エビデンスに基づくカンナビノイドの作用を明らかとすることを目的としています。この講座がカンナビノイドの有する疾病に対する治療薬としての可能性と、生活の質を高めるツールとしての有用性に関して、新たな視点や知識を提供する一助となることを願っています。質問や疑問、共同研究のご依頼などがありましたら、お気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。
大麻草から抽出される植物性カンナビノイドは、その多彩な機能から皮膚疾患に対する薬剤として期待されています。
しかしながら、皮膚の機能に対する効果や実際の皮膚疾患への有効性については、十分に解明されていません。また、国内におけるカンナビノイドの臨床研究については、アンケート調査や症例報告などは散見されるものの、科学的に品質が担保されたエビデンスレベルの高い臨床試験は実施されていないため、エビデンスが確立されていないのが現状です。一方海外では、カンナビノイド由来の医薬品が開発されており、多発性硬化症や小児難治性てんかんへの適応が承認されています。
社会連携講座で取り扱うカンナビノイドは、カンナビジオール (cannabidiol: CBD)であり、テトラヒドロカンナビノール (tetrahydrocannabinol:THC)のような顕著な精神作用はなく、大麻取締法による規制の対象とならない茎などの部位から抽出されたものであるため、国際的にも国内においても禁止されていないものです。 令和4年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」においては、「大麻に関する制度を見直し、大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を進める。」と明記されており、カンナビノイド医薬品の創出にむけた日本人を対象とした臨床試験の実施は、重要な課題として位置づけられています。 このような背景から、カンナビノイドの作用機序に基づき、臨床試験によってその有効性を明らかにすることを目的とした、国内で最初となる研究室の設置は、社会的にもニーズがあり、意義深いと言えます。
表皮細胞の各種機能(バリア機能、抗菌作用、炎症惹起作用など)および皮膚疾患に対するカンナビノイドの作用および有効性を、以下の研究を通して検討します。
1)カンナビノイドの皮膚機能に対する効果の解析
表皮細胞の各種機能(バリア機能、抗菌作用、サイトカイン産生能など)に対する、カンナビノイドの効果をin vitroおよびin vivoにて解析します。さらに、網羅的解析などを用いて、その作用機序も明らかにします。
2)アトピー性皮膚炎、乾癬などの皮膚疾患モデル動物を用いた有効性の検討
各種皮膚疾患の動物モデルを用いて、病変部の病理組織学的な解析、網羅的な遺伝子およびタンパク発現の解析などを行い、病態に対するカンナビノイドの有効性を明らかにし、同時に作用機序を解明します。
3)皮膚常在菌叢に対するカンナビノイドの影響の検討
共同研究機関で収集した数万人規模の検体データベースを活用し、皮膚常在菌叢に対するカンナビノイドの影響を検討します。
4) カンナビノイドの各種皮膚疾患や皮膚バリア機能に対する効果を検証する臨床試験
各種皮膚疾患(創傷、アトピー性皮膚炎、乾癬痛など)や皮膚バリア機能に対する効果について、安全性とproof of conceptの確認を目的とした介入試験を計画します。探索的な試験によって有効性の可能性が示唆された皮膚疾患においては、有効性を検証するためのランダム化比較試験を計画します。
5)口腔粘膜細胞を用いたSNP解析を行い、個々人におけるカンナビノイド効果予測因子の同定
また、カンナビノイドの皮膚への作用を検証することを通じて、 薬剤の前臨床試験や臨床試験に精通した皮膚科学研究者を育成します。
臨床カンナビノイド学研究室
〒113-8655 東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科皮膚科学教室
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